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衛藤賢史のシネマ教室

カルテット

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   2013/06/11

声優ダスティ・ホフマン75才にしての初監督は、成功といっていい!
かつて名を馳せた音楽家への心からの尊敬、イギリス映画らしい洒落たユーモア感、老いていくことの寂寥感などを織り混ぜ、その上にクラシックの名曲をソースとして添えた、大人のための楽しい娯楽作品に仕上げてきた腕前はなかなかの物であった。
イギリスの美しい田園地帯にある<ピーチャム・ハウス>は、引退した音楽家たちが寄り添って暮らす老人ホームである。しかし、経営は火の車であり、今年のコンサートの収益金が黒字にならなければ、<ピーチャム・ハウス>の存続が危ぶまれていた。そんな時、オペラの名プリマドンナとして活躍していたソプラノ歌手ジーン・ホートンが入居してきた。俊出した才能を持ったジーンは同時にわがままでエゴイスティックな振る舞いによって、仲間たちからその才能は尊敬されてはいたものの浮いた存在でもあったのだ。特にヴェルディの名作『リゴレット』の四重唱[美しい恋の乙女よ]でのソプラノのジーンの歌唱力はオペラ史上最大の歌声と言われていたが、他の三人の仲間の心を傷つけて去ったまま、カルテットの四人の交情は途絶えていた。そしてその三人であるテノールのレジー、メゾソプラノのシシー、バリトンのウィルフは、今この<ピーチャム・ハウス>の住人であった。今回のコンサート・マスターであるセドリックは、夢の四人が揃ったことで『リゴレット』の四重唱をコンサートの目玉にしようと計画し、三人にもう歌うことを止めたというジーンを説得することを命令する。しかし、レジーにはどうしてもジーンと一緒に出演したくないという理由があった。その理由を知っているウィルフとシシーだが、もう一度夢の四重唱を実現したい!という音楽家の業もありジーンとレジーの間を取り持とうとするのだが・・・。
美しいイギリスの風景と、かつての貴族の邸宅であった<ピーチャム・ハウス>の優雅な建物を背景にして展開するこの物語は、絹ごしの豆腐をそっと箸で添えるような繊細な心遣いで、かつて活躍した音楽家たちへの限りない愛と尊敬を表現している(ハウスの入居者の人々はすべて本物の音楽家[音楽ファンの方はパンフレットを買って見てください、えっ!こんな方が!と驚くような名前がズラリと並んでいます]の人々がいます)演出は心憎いばかりであり、全体に漂う酒脱なユーモア感を通して人間への賛歌にあふれた内容は音楽ファンのみならず、映画を愛する人々にも共鳴させる出来になっている。
そして老優たちの演技のなんとチャーミングなこと!映画は大人の物でもあるのです。
ぼくのチケット代は、2,300円を出してもいいと思います。
星印は、4つ差し上げます。

5点満点中4点 2300円

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