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衛藤賢史のシネマ教室

アゲイン 28年目の甲子園

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   2015/01/21

『風が強く吹いている』(2009/原作:三浦しをん)で箱根駅伝に挑む若者たちの青春模様をリリカルに描いた傑作で監督デビューを果たした大森監督の二作目。
今回は、高校球児の聖地である甲子園出場の夢を、ある事情から絶たれた元・球児たちが、その日から28年を経て[マスターズ甲子園]を目指しながら、それぞれの過去に決着をつけ<生れ変わる>物語であり、同時にそれは28年の間に歩いてきた家族の再生の物語ともなっている。
坂町晴彦46歳は、埼玉県の強豪高で主将を勤めた元・高校球児で現在は新聞社に勤務している。離婚後死別した妻との間に沙奈美という娘がいるが、絶縁状態。そんな坂町のところにある日、神戸大学の学生である戸沢美枝が訪ねてきた。美枝は元
・高校球児が再び甲子園を目指す[マスターズ甲子園]の学生スタッフであり、坂町にその大会への県予選への参加を依頼しにきたのだ。なぜ自分のことを知っているのか?
不審がる坂町に美枝は、離婚した父の名は松川典夫といい坂町のチームメイトで、27年間仲間に<一球入魂>とのみ書いた年賀状を出さずに保管していたが、東北大震災で津波に飲まれて死亡したと言う。思わず顔色を変える坂町。実は松川こそ坂町たちの高校の甲子園出場をある事件で絶った元凶だったのだ。しかし美枝と話すうちに坂町は、胸の内に封印していた<あの夏>の出来事に決着をつけなければ心にポッカリ穴が開いたまま暮らす生活から抜け出すことが出来ないと思いはじめた。そして、松川をいちばん憎む投手だった高橋を説得し、仲間を集め[マスターズ甲子園]への県予選への練習をはじめたのだが・・・・・。
高校時代の思い出したくない過去の描写と、激しく揺れる現在の仲間たちの心をオーバーラップさせながら進めるこの物語は、同時に<あの夏>で心の芯を折られたまま大人となり、過去への想いの申から抜け出ず現在の生活を蜃気楼のように感じながら生きてきた男たちの鎮魂の物語でもある。家族の父への想いを忖度できず、家族の心をバラバラにした男たちの過去からの決別、精神の再生をまっすぐな性格の美枝を通して描き、松川と美枝との間に交わされる<一球入魂>のエピソードの見事な伏線によって不器用な男たちの生き様が結実されるラストは涙なくしては見られないだろう。
大森監督は、またひとつスポーツ・ドラマで、今度は大人の物語を作り上げた!
ぼくのチケット代は、2400円を出したい作品となっています。
屋印は、4つ半さしあげます

5点満点中4.5点 2400円

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