OBS大分放送
衛藤賢史のシネマ教室

アメリカン・スナイパー

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   2015/02/24

80才を過ぎても、作る作品はすべて話題作となり色々な映画祭で常に受賞候補に挙がるという、C・イーストウッド監督の最新作であり、今回も見る観客の魂を鷲掴みする迫力満点の骨太な作品に仕上げている。
クリス・カイル。彼は2003年からイラク戦争に4回にわたって従軍し、並外れた狙撃の精度から<伝説の狙撃手>として英雄視されたシールズ出身の兵士であった。
テキサス出身で幼い頃、父親から人間は3つの種類に分けられると教えられる。それは<羊・狼・番犬>であり、弱い人間を狼から守る番犬の役割をするのが本当の男であるという言葉を守って成人する。
イラク戦争がはじまってクリスは、30才を過ぎてカーボーイからアメリカ軍最強の兵士を養成する<シールズ>に応募し、過酷な訓練をクリアして、狙撃主としてイラクに出兵することになる。出兵前に愛する女性タヤと結婚するが、父から薫陶を受けた[番犬]を是非とするカイルは新婚のタヤを故国に置いてイラクへと向かう。
狙撃手として海兵隊の兵士をプロテクトする役割は[番犬]を任じるクリスには水を得た魚であり、クリスが言う蛮人から仲間を守るためには相手を殺すことに一瞬の躊躇もない。結果は、クリスが仲間の背後に控えているだけで安心という勲功を次々と立てることによって<伝説の狙撃手>としての名声を得ることになる。
しかし、過酷な市街戦は一瞬の油断が命取りになる。仲間を守るために戦うという強固な信念ゆえに心がぶれないクリスであったが、帰還するたびに無口になっていくクリスの態度にタヤは不安を覚えはじめる。常にアドレナリンを掻き立てなければ生きてゆけない戦場と、高揚感の必要ない平和な日常生活との折り合いがクリスにつかなくなっていったのだ。そして4回目の従軍、タフなクリスの精神が軋みはじめた…。
実在のクリス・カイルの回想本をベースにしたこの作品は、観客であるぼくらも本当に戦場に連れ出されたような臨場感あふれる描写によって、殺しあうことの無残さ、戦場における人格の崩壊による非人道的行為の怖さを見せつけてくれる。同時に平和な日常と折り合いのつかなくなる兵士の心をきちんと描くことによって戦争は決してカッコいいものではないとC・イーストウッド監督は訴えかけてくるのだ。
B・クーパーのクリスが乗り移ったような迫真の演技によって、戦闘に慣れ非人間化していく過程を、これは人事ではないとつくづく思う作品となっていた。
僕のチケット代は、2,400円出してもいい作品でした。
星印は5つ差し上げます。

5点満点中5点 2400円

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