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衛藤賢史のシネマ教室

黄金のアデーレ 名画の帰還

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   2015/12/01

アメリカに住むユダヤ系の82才の婦人が、オーストリアの宝と謳われたグスタフ・クリムトの名画の所有権を訴えた実話を映画化したこの作品は、主人公を演じたヘレン・ミレンの知性的演技の冴えた佳作となっている。
1998年、ロサンゼルスで小さなブティックを経営するマリア・アルトマンは、長年人生の苦楽を共にした姉ルイーゼを亡くした。その遺品からルイーゼが、かつての故郷であるオーストリア政府に、ナチスに略奪された伯母の肖像画の返還を求めていたことを知る。その絵画は、今ウィーンのベルベデーレ美術館が宝として展示しているクリムトの俊作<アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像I>であり、絵画に描かれた女性はマリアの伯母であったのだ。マリアは共にナチスから逃れてアメリカへ亡命したシェーンベルク家の孫である、まだ駆け出し弁護士ランディに裁判手続きの依頼をする。
オーストリアの国家に対する裁判訴訟は複雑であり、ましてやオーストリアの至宝として展示している傑作なので国家をあげての防戦に、マリアとランディのコンビは苦戦つづき、何回も挫けそうになりながら粘り強くマリア一族の所有権の確証書類を探し訴訟を進めていく。もう二度とウィーンの土地を踏まないと誓ったマリアだったが、裁判のためしぶしぶかつての故郷に戻ったマリアは、変わらない町並みに60年前の思い出に耽ることになる。ユダヤの名家としての幸せな生活、伯母アデーレとの思い出、知性的な父母とのあまりに切ない別れ。この幸せな生活をナチスに蹂躙され、家屋財産まで根こそぎ奪われた悲痛な過去の出来事。
マリアの気持ちは再び固まる。絶対に絵画だけは取り戻す、一族の名誉のために!そしてアメリカ人になりきっていたランディも、祖父母の故郷でユダヤ人が被った悲劇の数々を再認識し、マリアと共にオーストリア国家に対して、この名画を取り戻す戦いに勝訴する覚悟を決めるののだった。そして・・・・・。
ヘレン・ミレンの知性とユーモアあふれる冴えわたる演技によって、この悲劇的出来事が暗くならず、未来に向かっての前向きな気持ちにさせられる佳作となっている。
お互いが憎み合う負の連鎖の断ち切りに、一灯へのほのかな期待を感じさせる内容ともなっているのだ!
OPAMに展示されているクリムトに花を添える作品ともなっています。
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいい作品でした。
星印は、4つ差し上げます。

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