OBS大分放送
衛藤賢史のシネマ教室

64 ロクヨン(前編)

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   2016/05/10

警務部広報官・三上の視線と思考で語られる横山秀夫の長編小説「64ロクヨン」は、脚本の組み立てが失敗すると重苦しいだけの映画になり兼ねない。その心配は杞憂に終り、まずは前編だけであった巻頭シーンから、観客の心を一気に掴む映画的視覚の広がるスケール感のある重厚な人間ドラマの作品となっていた!
久松真一と脚本を共同した瀬々敬久監督の躍動感のある映画的作劇が、小説とはまた違った緊張感を持つ人間同士のぶつかり合いを感じさせる濃い内容の作品に仕上げてきており、6月に封切られる後編を早く見たいと思わせる出来となっているのだ。
たった7日間しかなかった昭和64年の1月5日、関東のある県で少女誘拐事件が発生した。犯人から身代金2千万円が要求され昭和天皇のご容体が心配される重苦しい雰囲気の中、県警は必死の捜査を続けるも、少女は遺体となって発見され、事件は迷宮入りとなってりまう。
そして事件の時効が迫った平成14年。刑事として、通称<ロクヨン>と呼称される事件の捜査員のひとりであった三上は、県警内部の移動で刑事部とは犬猿の仲の警務部で広報官警視として勤務していた。折からある交通事故の加害者の女性の氏名を公表しない事案で記者クラブと対立していた三上は、家庭内の出来事で苦慮しながら記者クラブがキャリア官僚の警務部長から通達され、三上は被害者の父・雨宮にその件を承諾させるよう命じられる。記者クラブとの対立、家庭内のイザコザ、県警内部の部署の対立、14年前の痛恨の事件へと思いは遡る。かつての刑事部の同僚たちに白眼視されながら、ロクヨン事件の中の県警内部のスキャンダルを調べ始める三上。しかし、それら全てをひっくり返すような、ある事件が発生した…。
警務部という県警内部の人事などを主たる任務とする、いわば県警行政に勤務する警察官を主人公にした、異色の警察小説を映画化したこの作品は、かつての未解決の誘拐事件を縦糸にして、警察内部の権力争いに加えて新聞記者たちとの角突き合せまでを横糸にした複雑な内容を、よく整理された脚本によってスリリングに描かれていく。たくさんの登場人物の仕分けもよく処理されており、人間ドラマとしての厚味もあり、最近では最高の警察物の作品となっていた。瀬々監督(大分県出身です)の手腕は見事であった!僕のチケット代は2,400円出してもいい作品でした。
星印は4つ半差し上げます!

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