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衛藤賢史のシネマ教室

人生フルーツ

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   2017/02/21

津端修一さん90歳、妻の英子(ひでこ)さん87歳、この滋味に富んだ風貌の夫婦のゆったりとした生活を追った東海テレビのドキュメンタリー作品だ。
1955年、伊勢湾台風による被害で低地に住んでいた人々5千人の命が失われた後、名古屋の高台にニュータウン計画が施行され、日本住宅公団のエースである津端修一がプランをまかされた。津端さんの建築哲学は建物と自然の共生であり風の通り道である雑木林と団地が寄り合う斬新なデザインであった。ここは団地の他に一戸建て住宅建設も出来るシステムで、津端さん夫婦は300坪の土地を買い、津端さんが設計した平屋と手ずから育てた雑木林に囲まれた地に以来50年間住んでいる。
ここに70種類の野菜と50種類の果実が夫婦ふたりの手で育てられている。
<衣食住>さえ事足りたら、すべて良しという生活を堅持し、家内すべての仕事は夫婦ふたりで共同して分業しながらの生活ぶりをカメラは丹念に追う。
いちじく、サクランボ、オレンジなどの果実の収穫、津端さんの好物のジャガイモ、豆、竹の子などの料理・加工は英子さんが中心に担当し、雑事は津端さんが引受け日々の生活を送る様は、とても90歳と87歳という年齢と思えない達者なものであり、衣食足りて礼節を知るという故事を思い知らされる気持ちになるだろう。
育てている自然の恵み物への愛情は、津端さんが作る黄色いペンキに書かれた種名に、こんなの自分たちもやりたいと思う感謝の簡単なメッセージの立て札に、津端さん夫婦の自然の恵みへの慈しみと愛情が素直に伝わってくるのだ。
即席ではなく丹念に長い時間を懸けて育った作物たち。それが<風が吹いて葉が落ちていい土になって果実が実る>の樹木希林さんのゆったりとくり返されるナレーションによって、ぼくらはいつの間にか簡単利便な文明生活に慣れてしまった日々の暮らしを反省しながら、ぼくらの中に眠っていた自然との共生への強烈な郷愁に浸るだろう。
ここまで進化した文明は、ぼくらの生活の根本となっており、それはそれで便利がいいし、一回その味を味わえば、もう引き返せない魅力を持つ。
だが、この作品を見れば、津端さん夫婦ほどではないが何らかの形で<こつこつゆっくりと>自然との共生を心がける一端になるかも知れない示唆に富んだ作品となっている。
ぼくは津端さん夫婦に本物の日本人を出会った感じがした!
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいい作品でした。
星印は、4つ半差し上げます。

5点満点中4.5点 2300円

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