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衛藤賢史のシネマ教室

風の電話

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   2020/02/25

[風の電話]とは大槌町浪坂の丘の上にある電話線の繋がっていない<天国に繋がる電話>である!諏訪監督は、この電話にモチーフを得て、東日本大震災で両親・弟を亡くした少女が9年ぶりに故郷へ回帰する慟哭の物語に仕上げた作品である。

17歳のハル(モトーラ世理奈)は、岩手県大槌町で8歳の時に東日本大震災にあい、両親・幼い弟の家族全員を亡くして、今は広島県呉市の伯母広子(渡辺真起子)と共に暮らしている高校生。心に深い傷を持ったままのハルだが、広子のお陰で何とか心の平衡を保っていた。ある日、学校から帰宅したハルは居間に倒れている広子を見つける。たったひとりの理解者である広子が意識不明で入院する姿に心の平衡を乱されたハルは、あの忌まわしい日以来、一度も帰っていない故郷へ衝動的に向かう。
広島から岩手への旅の途中、ハルは様々な人々に出会う。憔悴して倒れたハルを助ける公平(三浦友和)は、年老いた母と暮らす寂しい境遇。ヒッチハイクに乗せてくれた妊婦とその夫。卑しい若者に襲われかかった所を助けてくれた、福島の元原発作業員で妻と娘を震災で亡くした森尾(西島秀俊)の車に同乗し、福島の森尾の知人宅で出会った広木(西田敏行)は故郷のこの場所で死にたいと切々と話す。
大槌町まで送ってくれた森尾の別れ際の「ハルが生きてこそ、ハルの心の中で家族はいきつづけるのだ」という言葉で立ち直ろうと呉に戻ろうとするハルに、駅のホームで少年がある場所はどう行けばいいかと聞いてきた。それは[風の電話]という大槌町にある場所!その意味を聞いたハルは反射的に同行することにする。

ハルにとって恐らく一期一会となるであろう様々な人々の邂逅によって知らされる<生きる>という意味を紡いでいくこの物語は、ラストの[風の電話]で亡き両親に語りかけるハルの10分弱による一人語りによって幕を閉じる。滂沱の涙とは、このラストを指すだろうと思うほどの余韻あるラストシーンとなっているのだ!諏訪監督は意識的かも知れないディテールを省きながらの、この切ないロード・ムービーな話しをぎこちない丁寧さで紡いでいく。モトーナ世理奈のハルの哀愁漂わせる無表情が森尾にハルの本名を言うシーンや、[風の電話]での心のセキを切ったような話し方による心理的変化によってハルの学習した<生きる>とはの意味が、心に伝わってくる作品でもあるのだ。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。

5点満点中4.5点 2300円

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